「おそれ」は「極めて危険な用語」/「最高裁基準に反すれば裁判続出も」/身体拘束の告示改定問題で社保審の竹下委員が指摘

KP主催の身体拘束体験会の一場面(佐藤光展撮影)

身体拘束の大臣告示改定に関する厚生労働省の説明が、6月23日、同省の第136回社会保障審議会障害者部会で行われました。このまま進むと「改悪」になる流れに対して、委員から疑問の声が上がりました。中でも、問題点を明確に指摘した竹下義樹さん(社会福祉法人日本視覚障害者団体連合会長)の発言を取り上げます。竹下さんは京都で活動する全盲の弁護士です。司法試験の点字受験を実現させ、9度目の挑戦で最初の合格者となり、後進に道を拓いた不屈の人です。

この問題を考えるうえで重要な視点は3つあると思います。1つは障害者権利条約に基づく、わが国に対して提示された昨年9月9日の総括所見であります。この総括所見を軽視する向きもないではありませんが、ご存知の通り、締結した、あるいは批准した条約の遵守義務は憲法に明記されていることですから、それを軽視することはありえないことだと思う。

2番目は、石川県で発生した違法な身体拘束を巡る裁判例で、最高裁まで争われて、最高裁が示した基準があります。この最高裁が示した基準を無視する、あるいは基準に反するような改定をすることは、明らかに三権分立に反することであるし、今後そうしたことをすれば、改定告示そのものが、言わば最高裁判例違反としてのそしりを受け、裁判が続出することにさえなりかねません。

3点目は、これまでの審議会の議論等で、(身体拘束を)最小化、減らしていこうという時に、それに逆行するものであってはならない。この3点だと思うのです。

その点から言えば、疑問ないし懸念を持たざるを得ないのは、7ページの、具体的な記載イメージという文章、さらにその後の、対象となる患者の記載に関する明確化についての改定案の内容。とりわけ②と③を見ていると、結局のところは、身体拘束の広がりをここで示すことになっているのではないかと、非常に危惧を感じるわけです。

もちろん、その記載そのものも非常に大きな問題を抱えています。「おそれ」というのは、明らかに問題を曖昧にして、その「おそれ」があったかなかったかということは、事後的に判断するしかあり得ないことを考えると、極めて危険な用語なんですよね。そういうことを考えると、この改定案の内容は、これまでの告示の要件を結果的に広げることにつながる重大な危険性を持っていることをご理解いただいて、今後のご検討をお願いしたいと思います。

この部会の議事録は7月10日現在、まだ公開されていませんが、YouTube動画で見ることができます。

この日の配布資料はこちらにあります。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126730.html

厚労省はこの部会で、「実際に告示改正を行うとすれば、本部会におはかりする必要がありますし、告示改正については様々なご意見があると承知しています。本部会の関係委員のみならず様々な当事者、関係者のご意見をいただきながら、引き続き検討を進めたいと考えています」としています。

本当に「改正」ならば歓迎ですが、このままいくと「改悪」になりかねないので、反対の声が強まっているのです。厚労省はこの事態を重く受け止め、全国に数えきれないほど存在する身体拘束被害者たちの声に真摯に耳を傾ける必要があります。