厚生労働省は身体拘束を推進したいの?!/6月9日、食い止めるための院内集会を開催/違法な身体拘束で息子を亡くした大畠正晴さんも発言/KPなど多数の組織が後援、「厚生労働省前行動」も

身体拘束を推進したいかのような厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館(佐藤光展撮影)

みなさん、こんにピア!!

5月13日付の「精神医療ルネッサンス」でも取り上げましたが、極めて重大な人権侵害である身体拘束が、精神科でますます増加しかねない危機を迎えています。これを食い止めるための院内集会が、6月9日午後3時半から、東京・霞が関の衆議院第一議員会館多目的ホールで開かれます。会場参加は関係者のみですが、Zoomでのオンライン視聴(事前申し込み)が可能です。また同日午後2時から、厚生労働省が入る中央合同庁舎第5号館前で、身体拘束大臣告示・改悪反対の世論を示す「厚生労働省前行動」が予定されています。

院内集会では、石川県野々市市の精神科病院・ときわ病院で違法な身体拘束を受け、息子の大畠一也さん(当時40歳)を亡くした大畠正晴さんや、大畠さんの裁判で身体拘束違法判決を勝ち取った弁護士の佐々木信夫さん、精神科医療の身体拘束を考える会代表の長谷川利夫さんらが発言し、国会議員や秘書らに直接働きかけます。

大畠さんの裁判で身体拘束違法判決が確定し、人権軽視の姿勢が国連からも批判を浴びている厚生労働省は、身体拘束を極力減らすための体制整備を急がなければならないのに、拘束要件に拡大解釈可能な文言を更に加えて、現状維持はおろか増加の方向に導こうとしているかのようです。現状の大臣告示の内容にも問題があり、そもそも、極めて重大な人権侵害の要件を大臣告示で安易に決める国の姿勢から正す必要があるのですが、今は何よりも、改悪を止めることが大事です。KPをはじめ、患者のための精神医療の実現を目指す多くの組織が後援する重要な集会です。ぜひ注目してください。

オンライン参加の申し込みは、電子メール(shintaikousoku@gmail.com)へ。厚生労働省前行動は、改悪反対の意思を持つ人であれば誰でも参加できます。

この院内集会の趣旨文を下記に掲載します。

令和5年5月24日

「身体拘束大臣告示の改悪問題の追及を通してあるべき民主主義の姿を考える院内集会」

趣旨文

2016年、石川県内の精神科病院で大畠一也さん(当時40歳)がベッドに身体拘束を6日間され続け、その後エコノミークラス症候群で亡くなった。両親は病院を相手取って提訴、2020年に名古屋高裁にて原告が逆転勝訴した。

高裁の判決文では、「行動制限の中でも身体的拘束は、身体の隔離よりも更に人権制限の度合いが著しいものであり、当該患者の生命の保護や重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いたものであるから、これを選択するに当たっては特に慎重な配慮を要する」と述べられ、今後の身体拘束の実施に歯止めがかかることが期待されたが被告病院側はこれを不服として56通もの意見書を付して、最高裁に上告受理申立てを行った。

しかし最終的に、2021年10月19日に最高裁がその不服を受理しない決定をし、患者勝訴の控訴審判決が確定した。するとすぐさまその翌11月に、日本精神科病院協会の山崎会長が記者会見を行い、協会としての声明を発表し、「二審判決とこれを追認した最高裁決定は到底容認できない」と結論付けた。

するとこれに呼応するように、2021年3月16日に厚労省は大臣告示に「検査及び処置等を行うことができない場合」という新たな要件を加える提案を行ってきた。医師の裁量を拡げるこの内容に院内集会を開催し反対の声をあげた。その後厚労省は「治療が困難」というやはり医療裁量を拡げる文言に変えた提案を行い、その文言は2022年6月に取りまとめられた厚労省の「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」の報告書に引き継がれた。

その後厚労省はこの身体拘束大臣告示の改定について民間シンクタンクの野村総研に「研究委託」を行った。この「研究」のメンバーは国会での追及を受けても公開されず、本年4月に報告書が明らかになって初めて正式に判明した。この中には石川身体拘束死裁判で最高裁に対して被告病院側の意見書を書いた医師2名が入っていた。

この報告書では大臣告示について「提言」が行われているが、これは現行告示よりも要件を拡大させるもので看過できない。

同報告書では、「3要件(切迫性、非代替性、一時性)の考え方を要件として明示する」としながら、その「具体的な記載イメージ」として、例えば「一時性」の内容として以下のように記載している。

◎身体的拘束は一時的に行われるものであり、必要な期間を超えて行われていないものである

「一時的」とは時間の概念である。これに「必要性」というまたしても医師が判断する概念を加えてしまっている。このことを今国会で追及されると、政府は「ここでの必要な期間を超えて行われていないとは、切迫性、非代替性の2つの要件を満たす期間を超えて行われないという趣旨を含めて提案された」と述べている。「一時的」という時間概念を、いつのまにか「切迫性」「非代替性」の要件に取り込み、言葉の意味内容を変えてしまっているのである。もはやこれは「一時性」ではない。

以上のように厚労省は一貫して現行告示に医師の裁量を拡げる提案をし続けてきている。

さらに国会では、石川身体拘束死裁判の判決文でも述べられた身体拘束が「生命の保護や重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いたものである」との現行告示の文言を残すかどうかを質されたが、政府は残すとは答弁していない。今のままでは国民の基本的人権は風前の灯である。

そもそも、身体拘束は人身の自由を最も侵害する行為であるにもかかわらず、告示要件であるがゆえに国会等で広く議論がしにくい状況にある。その点を国会追及された加藤厚労大臣は「最終的には私の責任でもって告示をさせていただく」と答弁している。

現在公開されているものは民間シンクタンクである野村総研「研究」の報告書である。より具体的な内容がわからなければ議論もできない。

人権の1丁目1番地である人身の自由の問題は、万機公論に決すべしである。

この真剣な議論によって、我が国の民主主義の発展に寄与すること、そのスタートラインに立つこと。それが本集会の開催趣旨である。