精神科病院の倒産時代到来か/病床使用率が全国平均70%台へ/看護師が年金生活高齢者ばかりの経営難病院も/ベルギーの取り組みに注目

精神科病院の病床使用率が低下を続け、今年中に全国平均70%台まで落ちることが濃厚となりました。経営の安定には病床使用率90%以上が必要とされますが、神出病院事件や滝山病院事件などで精神科病院のダーティーイメージは増すばかり。空床がますます増えそうです。

精神科病院に看護師として長く勤務した氏家憲章さんが、厚生労働省の病院報告を基にまとめた資料によると、2022年12月の全国平均病床使用率は80.3%。80%台にギリギリ踏みとどまりましたが、前年同月の82.9%から更に低下しており、今年中に70%台に突入するのは確実とみられています。病床使用率の低下は、入院期間が近年短縮している、超長期入院の高齢患者が死亡する時期にきている、認知症患者の長期入院がそれほど増えていない、など複数の要因が考えられます。

2022年12月の平均病床使用率を都道府県別にみると、90%台はなし。全国平均に近い80%台が24都道府県(神奈川県は80.5%)で51%を占めましたが、70%台と60%台も計23府県にのぼりました。60%台は、福島県(68.5%)と和歌山県(68.1%)の2県です。

この数字は都道府県ごとの平均値なので、率が低い県にも病床の多くが埋まっている優良経営病院(患者にとっての優良病院とは限らない)もあるはずです。その一方で、平均値より率が低い病院も少なくないため、このままいけば遠からず、精神科病院の倒産が相次ぐことになるでしょう。

すでに絶望的な経営状態にある病院の実態について、氏家さんはこう明かします。「病棟改修時の多額の借金がまだ残っているのに、空床だらけの病院もあります。施設を売り払っても完済できないので、とにかく延命しなければならない。そのために人件費を切り詰めるので、看護師は年金生活の高齢者ばかりになっています。これでは感染症や大災害などの緊急事態に対応できず、患者を危険にさらします」。

私は、患者のための病院づくりに本気で取り組む民間精神科病院には生き残って欲しいと思っています。執筆を始めた新たな本でも、こうした病院を好意的に取り上げるつもりです。精神科病院でのおぞましい事件や人権侵害を見続けてきた人たちが、「自業自得だ」「全部潰れちまえ」と思う気持ちは理解できますが、民間病院をひとくくりにして破滅を願うだけでは、日本の精神医療は良くなりません。氏家さんは次のように指摘します。

「戦後まもない時期から続いてきた入院中心の誤った政策を抜本的に変えるチャンスですから、倒産を喜ぶだけではだめです。地域ケア中心の精神医療に一気に転換するために、あらゆる層が今すぐにでも知恵を出し合わなくてはいけません」

地域ケアへの移行を進める病院に対しては、転換を後押しする支援も必要になるでしょう。病院で雑な看護しかできなかった職員が、地域に出てまともに働けるのかという不安もありますが、既存職員の多くを改革から排除したら前に進めません。お手本となるのが「ベルギーの取り組み」だと氏家さんは言います。日本と同様に民間精神科病院が多い国でしたが、2010年代、国の主導で病床削減と地域移行を進めていきました。その過程では、病院への財政支援や職員教育も行われたようです。

ただ、ベルギーの取り組みの詳細はまだ十分に知られていません。同国の行政や政党、患者組織や業界団体などが政策転換にどのように関わり、どんな役割を果たしたのか。市民の意識はどう変わったのか。最新の病床削減率はどのくらいなのか。より詳しい情報が必要です。

ちなみに、2010年以降の同国の精神科病床減少率をChatGPTにたずねたところ、「2010年以降、ベルギーの精神科病院は減少傾向にあります。具体的には、2010年から2017年の間に、ベルギーにある精神科病床数は27%減少し、精神科病院数は19%減少しました」と瞬時に回答がありました。真偽は不明ですが、ベルギーの医療関係者らと5年以上前から交流している氏家さんによると「2018年ごろまでに精神科病床を3割削減したと聞いています」とのことですから、ChatGPT、侮れません。

ベルギーの改革についてのより詳しい情報を日本で広めるため、氏家さんは「コロナの問題もやっと収まってきたので、そう遠くない時期にベルギーの関係者を日本に招いてシンポジウムを開きたい」としています。

精神科病院の今後のあり方については、4月30日の大熊一夫さん講演会(ゲスト・長谷川利夫さん)でも話題にします。残席が少なくなっていますので、参加申し込みはお早目にお願いします。

「病院報告」をもとに氏家憲章さんがまとめた都道府県ごとの病床使用率(2022年12月)