神奈川の37人が滝山病院に入院、うち生活保護22人/入院患者の20%占める/弁護士の相原さんと地業研の木村さんが集会で思い語る

滝山病院事件を受けて3月9日、緊急キックオフ集会「もうこれで最後にしよう!」(精神科医療の身体拘束を考える会主催)が、東京・永田町の衆議院第2議員会館で開かれました。KP事務局の精神保健福祉士・三瓶芙美さんが記録したメモをもとに、滝山病院の患者支援を続ける弁護士の相原啓介さんと、東京都地域精神医療業務研究会の木村朋子さんの発言を紹介します。

木村さんたちが情報公開で得た630調査の資料によって、2021年6月末時点の滝山病院入院患者(183人)のうち、20%にあたる37人が神奈川県内の居住者であることがわかりました。横浜市中区6人、川崎市麻生区3人、大和市3人、綾瀬市3人などとなっています。このうち22人が生活保護を受けており、福祉事務所などの関与が疑われます。東京で起こったこの事件は、神奈川の医療・福祉行政にも関係する大問題なのです。

弁護士 相原啓介さんの話

もともとは精神科の心理職で、デイケアをしていました。事件概要は報道の通りで、大規模な虐待と、違法な処遇などがありました。システムや法の運用を改めるのは当然ですが、しかし残念ながら、滝山病院のような事件が今回を最後になくなることはないと思っています。

多くのデイケア利用者と触れ合ってきましたが、腹の立つことはほとんどありません。それでも、一部の利用者にイライラしてしまうことはありました。20代の時には、ある利用者に陰性感情を抱いていました。後にその利用者は遠くの病院に入院させられ、その時、ホッとした自分がいました。今でも、その時の気持ちは何だったのだろうと、自責の念があります。今、50代になった自分だったら何とかできないかな、と感じています。そんなことなどが、今の取り組みに繋がっています。

現場では、実は看護師や精神保健福祉士の力が大きいと思っています。医者が全てではありません。例えば身体拘束は、やり方や看護のケアなど、本当に看護の範囲であり、医学ではありません。看護学、ソーシャルワークという専門の方々に、ぜひ医者とは違う独立した部分で専門性を発揮して欲しいと思います。

まだ日の浅いところでは、七生病院での患者監禁があります。畳敷きの大部屋に、コロナ禍で複数の患者が隔離されました。しかし現在、行政は幕引きしている。被害を受けた人はひとりも救済されていません。「病院はこう変わりました。改善しました」で済ませていないか。被害を受けた患者さんはどうなのか。非常に不明瞭に済ませていく社会だと感じます。

七生病院の件がどうなったのか、改めて問いたい。「どうなったのですか?」と言葉にしていくことで、風化を防がねばならない。滝山病院だけのことではないということを、意識して欲しいと思います。

医療保護入院は、監督が都道府県に任されていますが、もっと政令や省令で規定することが必要です。また、今の精神科病院は、条件なしで面会できるのは弁護士しかいません。しかも、入院者からのSOSや要請がないと、弁護士すら病院に入ることができません。地域・福祉が、要請がなくても病院の中に行ける仕組みを作ることも大切です。

八王子市の小山の中にある滝山病院(2022年2月20日撮影)

東京都地域精神医療業務研究会(地業研) 木村朋子さんの話

東京都が独自に続けていた精神病院統計は、かなりいい資料だったのですが、当初は開示請求がかないませんでした。そこで開示を求めて活動し、1986年と1987年の統計を手にすることができました。1980年代になって、ようやく都の情報公開条例ができたことで、やっと開示されるようになったのです。以後、630調査の結果なども加えて病院ごとのデータをまとめた冊子「東京精神病院事情(ありのまま)」を定期的に発行するようになりました。過去の冊子から滝山病院に関するデータの一部を紹介します。

1987年
看護の数は非開示
常勤医は3人
169人中121人が死亡退院(年間) 死亡退院率約72%
外来患者数0人
患者の病気は脳器質性障害(アルツハイマー病などの認知症)がほとんど

1993年
生活保護受給者42.8%
脳器質性障害58.1%
死亡退院率51.5%(都内で最も高い)

2008年
「東京精神病院事情(ありのまま)」の中に滝山病院特設ページを設け、死亡退院率の高さを指摘しました。都内の精神科病院の死亡退院率は平均3.3%でしたが、滝山は66.5%となっていました。看護やコメディカルの充足率が低く、死亡率が高い。危険な収容施設といえます。診療報酬の不正請求、必要のない人への中心静脈栄養、一般病室での手術、感染症など様々な問題が発覚した朝倉病院と、滝山病院は同じ朝倉一族で患者のやり取りもしていました。それで1997年から3年間、滝山病院から転院が増えたことで、死亡退院率が10%台に下がったことがありました。

2016年
『WEB東京精神病院(ありのまま)』を開設。このあと2年、個人情報を理由に630調査の結果が開示されない期間がありました。このタイミングで、東京都は630調査以外に独自集計していた貴重な統計を止めてしまい、年間の死亡退院率などが分からなくなりました。
看護有資格者 24人(2013年)から18人(2016年)に減少
看護師:助手の比率 25:75(都内平均は76:24)
生活保護受給者61%

2021年
6月30日時点の入院患者(183人)のうち54%が生活保護受給者。都内各地や都外からも広域に患者が入院しています。大田区からが12人で最も多い。神奈川など近隣の他、新潟や高知などからも入院しています。
看護職員 常勤:非常勤 13:120
6月1か月間の退院14人中9名が死亡退院 死亡退院率64%

これまで「透析や合併症の患者が多いのだから死亡退院率の高さは仕方がない」と擁護する意見も聞いてきました。それにしては、医者など有資格者の常勤が少なすぎます。外来も機能せず(6月の外来患者0人)、地域性がない。退院後に通院してスタッフとの交流があって、地域とのネットワークがあって、というのが自然ですが、ここは「終末施設」としての条件が揃ってしまっています。精神保健福祉法の退院支援委員会は機能していたのでしょうか。地域援助事業者の参画は0で、退院支援をそもそも想定しない運営だと分かります。

東京精神医療人権センターの石原孝二さんが、滝山・朝倉病院関連の過去のさまざまな記事を調べたところ、1960年代から問題になっていたことがわかりました。東京都の行政職員に金券を配って500人のホームレスを入院させたという報道もありました。

こうした病院の質を問う仕組みが十分にない。お見舞いも面会もない。外からの目が入らない。私たちはこの病院の問題をデータで指摘していたのに、それ以上踏み込めなかったことに悔いが残ります。ささやかなことでも、問題があれば問いただしていくことが大事だと思っています。

木村さんたち地業研の活動は情報公開請求の先駆けであり、そのデータに基づいて滝山病院の異様な実態も以前から指摘してきました。実に立派な活動です。しかし、行政も、ほとんどのマスコミも、知らんぷりを続けてきました。患者支援組織や家族会も同様です。大体が口先だけ、格好だけの、飽きっぽい事なかれ集団なのです。これは国民性なのでしょうか。

こうした事件が発覚する度に、「もう繰り返してはいけない」という言葉が飛び交います。しかし、こうした情けない組織ばかりなので何も変わらず、非道な事件が繰り返されてきました。2020年に発覚した神戸の神出病院事件ですら、マスコミの報道はすぐに減り、今やほとんど語られなくなっています。しかし、一部の人たちは追及の手を緩めていません。彼らを孤立させたら、悪人や無責任役人の思うつぼです。

2月に神戸で行われた「神出病院事件問題の解決を目指す緊急市民集会」で、精神医療サバイバーズフロント関西代表の吉田明彦さんはこう語りました。

「『だから仕方ないよね』じゃなくて、珍しく、ここまで問題が構造までわかってきた神出病院事件を我々は解決できないとすれば、神出病院事件ですら解決できないとすれば、この構造に対して私たちはメスを入れることを放棄するということです。ものすごくたくさんの人の人生と人権と命が奪われ続けるということを、我々は放置するということです」

各組織が己の活動の不甲斐なさを自覚し、問題の本質を鋭くえぐり続ける活動に転換しなければ、この事件もすぐに忘れ去られてしまうでしょう。私もこうした事件がこれでなくなるとは思いませんが、行動力のある人たちと連携しつつ、自分ができることを着実にやっていきたいと思っています。

周囲のフェンス上部に有刺鉄線を張り巡らせていた神出病院(2020年11月3日撮影)