死亡退院率2年連続100%の病院も/神奈川県内70病院の平均値は5%/死亡の多くは認知症患者

看護師が患者への暴行容疑で逮捕された医療法人社団孝山会・滝山病院(東京都八王子市)は、以前から死亡退院率の高さが際立っていました。精神疾患自体は命に関わる病気ではないので、精神症状が安定(認知症では周辺症状が安定)すれば地域ケアに移行したり、身体疾患の治療にしっかり対応できる医療機関にバトンタッチしたりするのが筋です。ところがこの国では、そうした当たり前のことが十分に行われていません。昭和の時代から官民挙げて、一部の精神科病院を人間の“最終処分場”として活用し続けているのです。

かつて朝倉病院事件を引き起こした人物が院長を務める滝山病院の悪評は周辺自治体にまで轟いていたのに、行政は動きませんでした。前回も指摘したように、福祉事務所などがこうした病院の“お世話”になっているので、深入りを避けたのです。

死亡退院率が異様に高い病院は、神奈川県内にもあります。KPが情報公開請求で得た2020年と2021年の630調査(精神科医療機関を対象に国が毎年実施する実態調査)のデータを基に、精神科病床のある県内70病院(病棟工事で2021年データがない1病院を除く)の死亡退院率を算出しました。

630調査のデータでは1年間(12か月間)の死亡退院率がわからず、6月1か月間のデータしかないので、「この月だけ死亡退院がたまたま多くなった(あるいは少なくなった)」ことも考えられますが、2年間のデータを比較すると各病院の傾向がそれなりに見えてきます。2020年6月の70病院の退院者数は計1358人、うち死亡退院者は67人で、死亡退院率は4.9%(全国平均6.6%)でした。また、2021年6月の70病院の退院者数は計1478人、うち死亡退院者は75人で、死亡退院率は5.1%(全国平均7.2%)でした。

70病院のうち、死亡退院率が2年連続で10%以上となったのは11病院。死亡退院率が2年連続100%の病院もありました。11病院の調査月の死亡退院率を下にまとめました(順不同)。カッコ内の数字は、左が退院者数、右が死亡数です。

このWebサイトや、冊子「どこに行けばいいの?!」で既に公開したデータと照らし合わせると、11病院の特徴や共通点が浮かび上がります。例えば、これらの病院の多くは、強制入院(医療保護入院)させられた認知症患者が病床のほとんどを占めていることが分かります。アルツハイマー病や脳血管性などの認知症が原因で、家族らの依頼で強制入院させられた人が、2度と退院できぬまま死に至っているのです。

「他に預かってくれる施設がないのだから仕方ない」という意見もあるでしょう。死亡退院率が高い病院の中には、難しい状況にある人を引き受けて、最期まで親身なケアを試みる施設もあると思います。こうした病院を、死亡退院率の高さだけで責めることはできません。ですが、滝山病院のような施設に入れられた患者は地獄です。心身の適切なケアを受けられぬまま、スタッフから暴力、暴言を日々浴びせられ、過剰な身体拘束をされ、膨れ上がるストレスでますます衰弱して、死期を早めていくのです。

精神疾患や認知症の人を地域でケアする努力や試行を怠り、病院という名の最終処分場に放り込んであとは関知しない、という無責任な仕組みが温存される限り、滝山のような事件は今後も発生し続けます。「仕方がない」「年寄りには早く死んでもらった方が助かる」「高齢者はみな切腹すればいい」と放置し続けたら、いずれはあなたの順番がきます。

死亡退院率が高い精神科病院