変わる精神医療制度を考える②/無視して、隠して、束ねて、出す/答弁で焦りまくる厚労大臣/天畠議員が再び質問

2022年10月20日に行われた参議院予算委員会での、精神医療関連の質疑を報告した前回の記事の最後に、「次回は、このやりとりの意味について考えていきます」と書きましたが、10月27日の参議院厚生労働委員会で、れいわ新選組の天畠大輔参院議員が「続編」的な質問を行ったので、今回はこれを書き起こします。精神医療の問題に限ったことではありませんが、国政がこんなレベルだから、日本は世界から置いてきぼりを食うのでしょう。

天畠大輔・参議院議員

精神科病院における身体拘束とは、一定の要件のもと身体の自由が制限されるものです。この身体拘束ですが、10年で2倍に増えていることはデータからも明らかです。先日の予算委員会でその理由を総理にうかがったところ、厚労大臣と確認するとのことでした。大臣、改めて、身体拘束が2倍になった背景について答弁をお願いします。

加藤勝信・厚生労働大臣

精神科病院での毎年の調査日における身体拘束件数は、平成16年から平成26年の10年間で約2倍に増加しており、その後はおおむね横ばいで推移をしております。身体的拘束件数の増加の要因については、令和元年度の厚生労働科学研究において実態調査を行ったところであります。その結果によりますと、精神科病院に入院する高齢の患者が増加する中で、高齢者の身体疾患への対応のために身体的拘束が増加している可能性が示唆されているところであります。

天畠議員

可能性が示唆されているといういいぶりでした。大臣、つまり明確な理由がわからないということですか。

加藤厚労大臣

あくまでも厚生労働科学研究ということで、実態調査をして分析したということで、そこから出てきたひとつの分析の結果であって、そこにおいてはそういう可能性が示唆されたということであります。

天畠議員

結局、よくわからないということですね。さて、今年6月に厚労省が報告書を出しました。地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会の成果物です。その中に不適切な隔離、身体的拘束をゼロとする取り組み、という項目があります。不適切な隔離、身体拘束の件数を教えてください。

畦元将吾・厚生労働大臣政務官

今年、行動制限は精神保健福祉法上、代替方法によることが困難な場合に必要最小限度の範囲でのみ行われるものであり、その判断は精神科実務経験を有し、法律などに関する研修を修了した精神保健指定医の専門的知見にもとづき、個別の事情に照らし合わせて行われることとされております。そのため、不適切な行動制限にあたるか否かを一律に判断することはできず、その件数を把握することは困難です。そもそも行動制限につきましては、常に患者さんの命、生命を一番に考えて対応しておりますことを付け加えさせていただきます。

天畠議員

大臣、現状がわからないものをどうやって減らすのですか。

加藤厚労大臣

ちょっと、その答えを返す前に、先ほどの分析結果が全然わかっていない、判明していないっていうお話でありましたけれども、この報告書では隔離、身体拘束の該当要件の内訳をみた中で、「生命に危険が及ぶ緊急性、切迫性の高い該当要件は他の該当要件よりも少ないことが明らかとなった」とした上で、身体的拘束の該当要件では「その他」というのがあるんですが、65歳以上でその比率は高くなる傾向が認められた。その内訳をみると、ほとんどが転倒転落、点滴等の自己抜去防止、身体管理のためとされており、その上で高齢者の身体合併症のための拘束が多くなっている可能性が示唆されたということですから、分析をした上でそうした結論を得ているということは申し上げておかなければいけないというふうに思います。

その上で、不適切な隔離、身体拘束というよりは、まさにこの身体拘束そのものをどう減らしていくのか、ということであります。今我々が取り組むべきところはですね。で、その中において不適切なもの、件数としてはなかなか把握できないところでありますけれども、逆に言えば適正な形でこの身体拘束を、失礼(資料を焦ってめくる。後ろで役人が慌ただしく動く)、しかも最小限の、どこだっけ、失礼しました、最小限の形でそれを、行動制限を最小化するためにどうすればいいのか、あるいはその行動制限最小化を普及するためにはどうすればいいのか、そういったことについてしっかり議論をしていきたいというふうに考えているわけであります。

天畠議員

今年9月に出た国連勧告は、日本政府の精神科病院の政策に強い懸念を示しました。具体的にはこう言っています。「精神科病院での死亡の原因や状況についての統計や独立した調査が行われていないことを懸念している」。更に、具体的な勧告もしています。「精神科病院での死亡事例の原因や状況について徹底的、かつ独立した調査を実施する」。大臣、厚労省から独立した調査機関を設けることを検討しませんか。

加藤厚労大臣

精神病床においては、1か月に約2000名の方がお亡くなりになっておりますが、入院患者のうち75歳以上の高齢者が36・5%を占めており、精神疾患だけではなくて身体疾患の治療もあわせて行われているというのが実情であります。こうした状況の中で、ご指摘のような精神科病院における死亡事例全般に関する調査を行うことについては、調査の実施体制もとより、調査の目的や対象等を含めて慎重な検討が必要ではないかと考えております。また、厚生労働省としては先ほど申し上げましたが、精神障害者の一層の権利擁護の確保に向けて本年9月に公表された勧告の内容や関係者の意見も踏まえながら、引き続き取り組んでいくこととし、令和4年度の障害者総合福祉支援事業の精神科医療における行動制限の最小化に関する調査研究において、精神科医療における行動制限の最小化に関する検討会を開催し、先ほど申し上げた論点を中心に議論を行わせていただいているところでございます。

天畠議員

政府は精神科病院での死亡事例の調査をしておらず、実態はよくわからない。むしろ民間が調査しています。2019年には読売新聞が、身体拘束が原因で死亡した可能性のある患者が3年間で少なくとも47人にのぼる、との記事を出しました。政府は身体拘束を減らす方針は立てるけれど、調査にも、独立機関をたてるのにも、後ろ向きだとのことです。それならばせめて、身体拘束を減らすために数値目標を立てませんか。

加藤厚労大臣

行動制限は精神保健福祉法上、医療または保護に欠くことができない限度において、代替方法によることが困難な場合に必要最小限度の範囲でのみ行うものとされており、可能な限り最小化に取り組む必要があると考えております。で、行動制限を可能な限り最小化に向けては、関係者が広く目指すべき姿を共有することが大事であると考え、身体的拘束は患者ひとりひとりの状態等を踏まえ、精神保健指定医が判断して行うものでありますので、一律に数値目標を設定することは慎重に検討する必要があると考えております。精神障害の当事者の方々はじめ、広くご意見を聞きながら代替方法の抽出等による可能な限りの身体拘束の最小化に引き続き努力をさせていただきたいというふうに思っております。そうした中で、先ほどの検討会等々における議論も進めさせていただきたいと考えているところでございます。

天畠議員

今日は時間が足りませんが、身体拘束の件は引き続き質疑で追及してまいります。最後に束ね法案について申し上げます。障害者に関する複数の改正法案が束ねられたまま、昨日(2022年10月26日)国会に提出されました。国連勧告という世界からの警鐘を無視し、問題のある精神保健福祉法改正案を隠して、他の障害者関係の法案と束ねて国会に出すのであれば、政府は極めて不誠実だと言わざるを得ません。束ね法案の提出には改めて抗議します。無視して、隠して、束ねて、出す。政府の姿勢には憤りを感じています。

書き起こしは以上です。身体拘束が原因とみられる死亡が相次ぎ、石川県の死亡例では身体拘束の違法性が裁判で認められたというのに、この国は、死亡事例の徹底調査→やる気なし、「不適切な隔離・身体的拘束」の意味→不明、身体拘束を減らす数値目標→立てない、独立調査機関→作る気なし、なのです。

こうした姿勢を改めさせなければ、国はこれからも、「高齢者が増えているのだから身体拘束が増えても仕方ない」という趣旨の見解をしれっと述べ続けるでしょう。加えて昨今、身体拘束を更にやりやすくするような要件緩和の動きが出ています。いつまでも平和ボケに浸っていると、次に縛られるのはあなたの親やあなた自身かもしれませんよ。

臨時国会の委員会質疑では身体拘束問題などが取り上げられている。