変わる精神医療制度を考える①/改悪なのか改善なのか/参院予算委で「この法案には毒が」の指摘
2022年は、障害者関連の法律を一部変えるための法案が作られてきました。その目的が、仮に善意に基づくものだとしても、意外な落とし穴によって以前よりも状況が悪くなることがあります。だからこそ、法改正は勢いで行うのではなく、当事者を交えた議論の積み重ねが必要であることは言うまでもありません。
今月20日、れいわ新選組の天畠大輔参院議員が参院予算委員会で行った初質問が注目を集めました。とはいえマスコミが取り上げたのは、発話障害がある天畠議員が質問時に行った「あかさたな話法」ばかりでしたが、精神医療・福祉関係者にとって、その質問内容は聞き逃せないものばかりでした。身体拘束問題に取り組む杏林大学教授・長谷川利夫さんも参考人として登場した重要な質疑を、今回は書き起こしていきます。丸括弧内の言葉は私が追加しました。
天畠大輔・参議院議員
政府は、障害者の命に関わる複数の法案を束ねて当国会に提出しようとしています。政府は似たようなことを過去に何度もしてきました。3年前の健康保険等改正案、2年前の社会福祉法等改正案、問題点を束ね法案で隠そうとしているのではないかと国会議員が指摘しています。今回も同じではないですか。この(束ね法案の)中にある精神保健福祉法改正案のポイントを教えてください。
※参考 天畠議員が指摘した政府の束ね法案
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案
- 障害者総合支援法
- 精神保健福祉法
- 障害者雇用促進法
- 難病法
- 児童福祉法
これらを束ね法案として一括審議
加藤勝信・厚生労働大臣
今回の法案は、精神障害を有する方が必要なサービスを切れ目なく受けながら、地域で安心して暮らせるようにするため必要な体制の構築を図るものであります。具体的には精神保健福祉法について、医療保護入院の手続きを見直し、入院期間に6か月の上限を定める。精神科病院を訪問し、患者の体験や気持ちを傾聴する取り組みを都道府県の事業として位置付ける。精神科病院における虐待防止のため、従業者への研修や普及啓発に加え、従事者による虐待を発見した場合に都道府県に通報する仕組みを整備する、などの改正を行うこととしています。
今回の法案には、地域生活や就労の支援の強化等により、障害のある方の希望する生活を実現するため障害者総合支援法と一体的に改正を行うものであります。
天畠議員
今回の精神保健福祉法の改正内容は、人々の権利の制約に直接かかわるものであり、障害者への給付に関する法律である障害者総合支援法との関連性は低いと考えます。ではなぜ束ねられたのか。この法案に毒が含まれているからではないでしょうか。
杏林大学・長谷川利夫教授(参考人)
2021年現在、国内の精神科病院には約26万人が入院しています。うち約13万人が医療保護入院です。つまり入院患者の約半数が自分の意思によらない強制入院です。精神保健福祉法においても、精神障害を持つ人は、権利を尊重される人というよりも、保護の対象です。法律の条文には、(精神障害者の)「発生の予防」という言葉すら、いまだ残っています。医療保護入院は、自傷他害の恐れがなくても強制入院させる制度です。しかも、家族の同意で入院させる世界でもまれにみるおかしな制度です。
天畠議員
今回の法改正では、患者に家族がいない場合に加えて、家族が意思表示をしない場合も、市町村長の同意によって医療保護入院が可能になろうとしています。国連勧告(今年9月、国連の障害者権利委員会が日本に示した改善勧告)では、障害者の強制入院による自由のはく奪を認める全ての法的規定を廃止すること、と強く勧告しています。
今回の法改正は、勧告に逆行しているのではないでしょうか。また、法改正の先にあるのは身体拘束要件の問題です。そもそも身体拘束とは、一定の要件のもと、身体の自由を奪うものです。この件数は、2003年から10年間で2倍になりました。
長谷川教授
精神科病院の中では、身体拘束により多くの方が亡くなってきており、裁判も全国で行われています。昨年10月には、石川県の40歳の男性が身体拘束後に亡くなった裁判で、身体拘束開始時からの違法性が最高裁で確定しました。身体拘束の実施要件は、厚生労働大臣告示において、自殺企図または自傷行為の著しい切迫、多動不穏が顕著、生命の危機、などに限定されています。しかし今、この告示を30年以上ぶりに改編し、治療が困難、という言葉を加えようとしています。現行にない「治療が困難」という要素を加えることは、今までよりも医師の裁量を広げることになります。そもそも、人身の自由や人権を制限する行為の要件が、国会の審議を経ることなく、告示で定められていること自体が極めておかしいことです。
天畠議員
今、人の自由を奪う行為の要件が国会審議を経ずに告示で定められているとうかがいました。総理、これは人権の観点からおかしくないですか。
岸田文雄・内閣総理大臣
精神保健福祉法においては、精神科病院に入院中の者の処遇については、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聞いた上で、必要な基準を定めることができるとしています。また、身体的拘束等の行動制限については、同法において医療または保護に欠くことができない限度においてのみ行うことができるとされており、厚生労働大臣が告示に定める基準についても、法律の趣旨に基づき定められるべきものであると考えております。
天畠議員
身体拘束が10年で2倍に増えています。これは、(岸田総理が先に言った)「欠くことができない限度」が2倍に増えたということですか。総理お答えください。
岸田総理
身体拘束が2倍に増えたというご指摘でありますが、その実態について今一度確認するとともに、その意味の分析について厚労大臣とも確認をさせていただきたいと思います。
天畠議員
聞く力というのであれば、私たち当事者の声を聴く機会を作ってください。私たち当事者と会っていただけるのか、いただけないのか、二択でお答えください。
岸田総理
会う具体的な会い方について検討をいたします。ぜひお話を聞かせていただきたいと思います。
天畠議員
そこは温情主義から脱せたのですね。私たちが出した束ね法案提出反対の要望書はご覧になりましたか。
岸田総理
反対のご意見について、わたくし現物は拝見しておりませんが、こうした束ねに反対するというご意見があるということについては、うかがっております。今回の法案では、例えば精神科病院の長期入院を見直していくための医療面での見直しや、退院後の生活面での支援強化、また難病患者の福祉や就労面での連携強化など、障害者の生活を総合的に支援することを目指す内容になっておることから、関係法案の一体的な見直しが必要であるという判断に立っていると承知をしております。この点についてもご理解をいただきたいと思っております。
国会質疑の書き起こしは以上です。いかがでしょうか。次回は、このやり取りの意味について考えていきます。
