番外編/若い記者たちと考える/地域主体で孤立防ぐ対策が重要/精神医療は出しゃばらずサポート役を

KP設立のきっかけを作った縁で、この組織にどっぷり関わるようになって2年半になります。この間、精神疾患がキーワードとなる大事件が起こる度、新聞社などからコメントを求められるようになりました。取材する側とされる側、双方の役割を求められるようになったのです。この1年でも、西日本新聞、読売新聞、毎日新聞、神奈川新聞などの取材を受けて、紙面やネットにコメントが掲載されました。

各社とも、取材をしてくれたのは若手から中堅の記者たちです。日頃は事件報道などに追われる彼らが、精神疾患の人たちを排除する不穏な社会環境や、精神医療の負の側面に問題意識を持ち、「なんとかしたい」との思いで記事を書いてくれるのは嬉しいことです。

しかし、精神医療や精神疾患についての記事をまとめるのは簡単ではありません。原因不明の心身の不調ばかりを相手にする精神科が、宿命的に持つ「分からなさ」や「あいまいさ」ゆえに、紋切り型のオチをつけられないのです。

今年1月に川崎市で発覚した監禁・衰弱死事件では、死亡した30代の長男に以前からメンタル面の不調があったにも関わらず、精神科受診につながらなかった環境が問題のひとつとされました。確かに、検査数値を端的に示せる一般診療科であれば、「早期受診・早期治療」はおおよそ勧められます。ところが、精神科は科学的な検査法が確立されていないので、病気やその予兆を一般診療科ほど正確に評価できません。

精神医療の限界を踏まえた上で、知ったかぶりや決めつけをせず、豊富な経験をもとに誠実に対応してくれる精神科医に当たれば救われます。ですが、地雷のような精神科医もそこかしこに存在するので、おかしな診断や過剰な投薬で症状が悪化する人が後を絶ちません。

更に、ヤブな上に不誠実な精神科医は、自らの診断力、治療技術の無さを棚に上げて、「(症状悪化は)治療の失敗ではなく、病気が悪化したためだ」と言い逃れをします。そんな呆れた理屈がまかり通る危うい世界が精神科なのです。こうしたヤブ医者の被害にあった人たちの悲鳴が、KPの電話相談に日々届いています。

川崎のケースでは、家族が医療機関にきちんと相談していれば、長男は強制入院や身体拘束、薬漬け、電気ショックなどを受ける羽目になったかもしれませんが、事件は防げたでしょう。だからといって、これを教訓に「早期受診」や「早期治療」だけを求めて終わるような報道は間違っています。良い精神科医の数や、彼らを見つけ出すための情報が決定的に不足している現状では、精神医療だけに救いを求める安直な報道は謹んでもらわなければなりません。

メンタル不調を感じた時、精神科を受診することは悪くありません。ですが、精神医療の現状や問題点、セカンドオピニオンの大切さなども同時に伝える必要があります。そんなことをあれこれ書いていると、歯切れの悪い記事になりがちですが、そもそも精神医療自体が曖昧模糊としているので仕方ないのです。

メンタル不調の人に対して、周囲がまず行うべきことは、その人としっかり向き合い、ストレスの原因を見極めて環境を改善することです。そこをすっ飛ばして、なんでもかんでも「脳の病気」のせいにして、上げたり下げたりの薬を次々と出すことしか能のないヤブ精神科医につなげたら、治るものも治らなくなります。

今夏、KP事務所まで足を運んでくれた神奈川新聞の井口孝夫記者は、こうした事情をしっかり理解した上で、川崎の事件についての記事を書いてくれました。9月3日、朝刊社会面のトップを飾った記事の見出しは、「精神疾患 孤立で悪化」「患者、家族支える体制を」。家族に過重な責任を押し付ける医療保護入院制度の問題なども含め、考え抜いてまとめたことがよく分かる記事になっていました。

「患者、家族を支える体制」の主体は地域社会です。精神疾患の主たる悪化要因は「孤立」ですから、地域社会の関わりが欠かせません。そして精神医療は出しゃばらず、必要に応じて患者や家族をサポートする。そのような仕組みづくりを、金をケチらずに本気で進めていく必要があります。KPもその役割の一端を担っていきたいと考えています。

9月3日の神奈川新聞朝刊社会面