KP設立2周年記念シンポ大成功/渡邉さん率いる木村病院の取り組みに感激の声多数/診察に時間をかけるため一般社団クリニックを作った樋口さん/斎藤さんと石原さんがオープンダイアローグ報告/弁護士の佐々木さんは患者としての思い語る

KPが8月12日、横浜市健康福祉総合センターホール(桜木町)で開催した設立2周年記念シンポジウム「良い精神科医はどこにいる?」は、コロナ拡大、平日開催、お盆、台風接近という強烈な逆風に曝されながらも、全国から多くの参加者を集め、大成功となりました。この日から発売開始の冊子「どこに行けばいいの?~精神科病院選びに役立つデータ本~」(KP独自編集、1000円)は、会場持ち込み分が完売となる人気を集めました。

このシンポは昨年に続き、佐藤編集長がコーディネートしました。第1部ではます、KPメンバー2人(稲川洋、濱田唯)が、630調査データのWeb掲載と冊子づくりのために行った情報公開請求の手順や苦労、冊子に盛り込んだデータなどについて報告。KPの相談電話に日々寄せられる「信用できる病院はどこ」「良い精神科医を知りたい」等の切実な声を紹介し、精神科や行政機関が情報公開に積極的になるべきだと訴えました。
 
続いて、金沢の身体拘束裁判(縛られた男性が後に死亡)で昨年、画期的な勝訴(身体拘束を違法とする高裁判決が確定)を得た弁護士の佐々木信夫さんが講演しました。不適切な精神医療の被害者があまりにも多いので、「良い精神科医はほとんどいないように思える」としながらも、自身が統合失調症の再発で苦しんだ時、家まで来て診てくれた友人の精神科医に救われたエピソードなどを紹介しました。
 
また「抗精神病薬は役立っていますか」という会場からの質問に対して、佐々木さんは「効果を感じることはあります。ただ、そもそも私は(初発時に)薬を飲むべきだったのか、という疑問はある」と語りました。今月22日と23日、ジュネーブで開かれる障害者権利条約に関する国連の対日審査については、「日本は身体拘束が非常に多く、(国際的にみても異様な)医療保護入院もなくそうとしないが、こうした現状に国連は厳しい勧告を出すと思う」との見方を示しました。
 
学而会木村病院(千葉市)の院長を務める渡邉博幸さんは、院内でのコロナ対策の陣頭指揮を執るため、急遽オンラインでの出演となりました。

講演では、差額代を低く抑えつつ、ホテルに負けない安らぎの空間づくりを目指したストレスケア病棟ハーフェンの個室や共用スペースを写真で紹介。他の病院では独房的なイメージが強い保護室までも快適そうで、多くの参加者から「私も苦しくなった時は木村病院に入院したい」との声が上がりました。また、周産期や幼い子どもがいる女性の支援や、ハローワークと組んだ就労支援などでも大きな成果を上げていることが伝えられました。
 
そして第1部を締めくくったのは、各地で大反響を巻き起こしているOUTBACKアクターズスクール。その内容は別の記事で詳しく取り上げます。
 
休憩後の第2部では、国立精神神経医療研究センターや日本うつ病センターの名誉理事長、樋口輝彦さんが講演。現在の診療報酬制度では、外来で患者の話をしっかり聞くことに時間をかけると、精神科医療機関は赤字になります。樋口さんは「この仕組みを変えるのは簡単ではない」としながらも、良い精神科診療のあり方を示したいとの思いから、7年前、思いを同じくする精神科医たちと東京・四谷に六番町メンタルクリニックを開いたと語りました。
 
このクリニックの運営は医療法人ではなく、一般社団法人。企業のメンタルヘルスサポートなどで収益を上げて、面接に時間をかけるクリニックの経営を補うことで、良質な医療の提供が可能になったといいます。

佐藤編集長の「精神医療ルネッサンス」に昨年登場した精神科医の野村総一郎さんも、このクリニックの設立メンバー(現・名誉院長)です。面接に重点を置くことで薬が大幅に減ったり、症状が劇的に改善したりするケースが多いようです。この日の樋口さんの講演では、うつ病を正しく理解するためのポイントなども語られました。
 
続いて、精神科医の斎藤環さんがオープンダイアローグの現状について語るインタビュー動画を上映。自身が実感した「開かれた対話」の劇的な効果や、問題の多い精神医療に対する切れ味鋭い言葉の数々に、集まった人たちは引き込まれました。斎藤さんのインタビューの内容は後日、「精神医療ルネッサンス」に掲載します。
 
動画の後は、斎藤さんと共にオープンダイアローグの普及活動に取り組む東京大学教授の哲学者、石原孝二さんが講演し、自身が考える良い(信頼できる)精神科医の条件として、「当事者を人と見なす(当事者の発言をきちんと聞く)」「向精神薬の使用はなるべく避け、その副作用をきちんと説明する」「当事者の力を奪わない・病理化しない」の3つを挙げました。
 
更に「製薬会社やMRの説明をそのまま当事者に説明しない」「社会的な模範からの逸脱を『病状』として説明しない」「十分なエビデンスに基づかない物語を『医学的』な説明であるかのように語らない(統合失調症の人はドーパミンが出過ぎているとか、うつ病の人はセロトニンが足りないとか…)」「当事者の力を奪うような余計なことはしない」などのポイントを挙げました。
 
第3部の総合討論では、精神科の治療実績に関する情報があまりにも乏しいことが話題となりました。「そもそも精神疾患に『治癒率』という考えはない」「精神疾患自体が目に見えるものではないので、無理に治療成績を集めると(悪い病院がインチキな自己評価で成績を上げるなどの)問題が生じる」「長期的な就労実績や患者の満足度などで評価するのが現実的ではないか」などの声が上がりました。
 
総合討論の中で渡邉さんからも指摘がありましたが、精神科の診療の良し悪しは、医師と患者の相性も大きく影響します。そのため、万人に満足を与えられる精神科医は存在しません。だからこそ、信頼できそうなクチコミを含め、医療機関選びや医師選びに役立つ情報の量を増やすことが大切なのです。患者たちが情報を駆使して、信頼できる精神科医に1日も早くたどり着けるように、KPは今後も、様々な情報の発信に努めていきます。

第3部・総合討論の一場面。左から樋口さん、石原さん、渡邉さん(ZOOM)、佐々木さん、佐藤編集長
(2022年8月12日、横浜市健康福祉総合センターホール 中村マミコ撮影)