幻聴は自分を導いてくれた不思議な力/でも主治医には打ち明けられず

みなさん、こんにピア!!

統合失調症の典型的な症状とされる幻聴。精神科に行くと、副作用の強い薬を使ってでも抑え込まなければいけないガンのような症状として扱われます。しかし、本当にそうなのでしょうか。幻聴の中身は患者によって様々です。幻聴とうまく付き合えるようになれば、強引に消し去る必要はないのではないでしょうか。ガンジー友蔵さんが、自身の幻聴体験を書いてくれました。

私は幻聴が聞こえます。もう20年以上続いています。その経験から、幻聴は意思を持っているように感じます。

初めて幻聴が聞こえたのは26歳の時です。当時、体調がすぐれない中でアルバイトをしていましたが、人間関係がうまくいかず、店長とケンカをして辞めました。それ以来、元アルバイト先の人達に尾けられているという妄想がわき、精神科に行くと「統合失調症」と診断されました。

「タバコを止めろ」。生まれて初めての幻聴は、そう聞こえました。聞いたことのない男の声でした。私は思わず「はい」と答えてしまいました。すると、「今、はいと言ったな」と。私が「この一箱を吸い終わったら」と心の中で答えると、「今、止めると言っただろう」と強い調子で言われました。

2度目の幻聴は、元アルバイト先の人達に尾行されているという妄想が強まり、アパートの部屋で怯えている時でした。聞こえたのは、「まだ分からないのか」でした。この2つの幻聴は声だけでした。

それ以後の幻聴は、必ず音の中に混じるようになりました。風が吹いて雨戸がガタガタ揺れる音、誰かが雨戸を閉める音、家族がドアを開け閉めする音、シャワーの音、空腹でお腹が鳴った音……。様々な音に混じって、幻聴が聞こえてきました。

精神科で処方された薬を飲んでも、入院しても、注射を打っても、幻聴は消えませんでした。注射を打った時は、幻聴の声が女性カウンセラーの声に変わり、ますますひどくなりました。

初めの10年くらいは、幻聴に脅されてばかりでした。「悪いことが起こるぞ」や、何かをしようとすると「止めろ」などと言われました。当時通所していた福祉施設に行く前に、ドアを閉める音に混じって「悪いことが起こるぞ」と聞こえた日には、苦手なベテランメンバーに嫌な目にあわされました。たまたまだったのだと思いますが、当時の私は、そこに予知的な力を感じました。幻聴は、神秘的な力を持った大きな存在からのメッセージではないかと思うようになりました。

38歳の時、不思議な体験をしました。当時通っていた福祉施設で働いていると、私の周囲がキラキラ光っていたのです。以前にKPメンバーが、自分の周りがキラキラ光った経験があると投稿されていましたが、似ています。

キラキラの中では、職員やメンバーがかけてくる言葉が、普段より重みがあるように感じました。例えば、ある職員の「今日は耐える日ですよ」という言葉が強く印象に残りました。ただの鍋作りの当番だったのですが、鍋の前で火をじっと見ているだけの時間は、確かに忍耐が必要でした。さらにその日の午後は、ひたすら皿洗いをすることになり、「耐える」という言葉がとても心に響きました。

そんな不思議な感覚は、数日続きました。一つひとつは大した出来事ではないのですが、その数日間は恍惚としていて、まるで自分の人生を凝縮して体験しているように感じました。つらさに耐えてきた時期を追体験しているようにも感じました。

それ以来、幻聴の言ってくる内容が変わりました。それまでは脅してばかりだったのが、良い事も言うようになったのです。「それでいい」とか、私が不安がっていると「大丈夫だ」とか。恋愛の応援もしてくれるようになりました。

気になる女性が表れた時、生活音に混じって聞こえてきたのが、「明日は2人きりになるから話しかけろ」でした。実際、2人きりになる機会が訪れました。話しかけたら相談を持ち掛けられて、やがてデートにつながりました。デートの場所も幻聴に指示されました。私の知らない東京の駅名を告げてきました。結局、何回かデートをして振られましたが、その頃から、幻聴が優しくなりました。

ただ40歳になった時に、「お前は50歳まで苦しむ。苦しいぞ。大丈夫だ」と言われました。その後は実際、メンタルの不調がぶり返して入院したり、12年間通った福祉施設を辞めたりして、苦しかったです。しかし、頭の片隅に残っていた「大丈夫だ」の言葉が支えになりました。とはいえ、幻聴の言うことがハズレたり、ウソをついたりすることもあって、役立つことばかりではありませんでした。

最近は、幻聴の形も変わってきました。音に紛れて一方的に何か言われる形から、言葉のキャッチボールができる形に変わってきたのです。幻聴に何かを聞きたかったり、伝えたかったりした時、こちらから音を出すと、幻聴が言葉を返してくるようになったのです。

灰皿をテーブルの上でずらして音を立てると、その音に紛れて幻聴が聞こえます。何かに迷った時、灰皿をずらして幻聴の意見を確認するようにもなりました。いつも答えてくれるとは限りませんが。

でも、こうした幻聴との付き合いは、主治医には一切、打ち明けていません。これまでかかってきた精神科医は全て、幻聴の内容など聴こうとしませんでしたし、「幻聴と会話している」なんて話したら「ますますおかしくなった」と判断されて薬を増やされかねないからです。

以前、カウンセラーから借りた統合失調症についての本の中に、「幻聴は自分の心の声だ」と書いてありました。無意識の中に何かあるのかも知れません。精神医学だけでなく、心理学、脳神経科学、宗教、思想、哲学、いろいろな分野で、無意識についての解釈があると思います。

幻聴が聞こえたから、それですぐに「統合失調症ですね」「薬を出しましょう」「飲まないと大変なことになりますよ」という精神科のやり方には納得出来ません。もちろん、緊急時は仕方ないと思いますが。

こんなことを書くと、病識がないと言われるかもしれません。それでも、精神医学だけでは幻聴は解明出来ない部分もあると、私は思っています。

苦しい幻聴のイメージ(イラスト サシくん)