クロザリルに安易に誘導するヤブ医者たち/作り出された「治療抵抗性」
あけましておめでとうございます。編集長の佐藤です。
KPの電話相談は1月5日から再開しました。新年早々、おめでたくない内容の相談が次々と寄せられています。
2021年の後半は、抗精神病薬「クロザリル」(クロザピン)についての相談が複数ありました。この薬は、「治療抵抗性」統合失調症の治療薬として、世界中で使われています。副作用として、命にかかわる無顆粒球症などのリスクがあるため、日本では認可が遅れていましたが、2009年に薬価収載されて使えるようになりました。
ただし、一定の基準を満たした精神科医と医療機関でなければ処方できません。副作用を早期発見するため、クロザリル患者モニタリングサービスへの登録と、定期的な血液検査が義務付けられています。患者側も、それなりのリスクと制約を背負うことになりますから、安易に使う薬ではないのです。
相談の1例を紹介します。西日本に住む30代の男性Оさんのケースです。母親が仕事柄、医療に詳しいこともあり、担当医への疑問が抑えられなくなってKPに連絡をくれたのです。
「医師が『最後の砦です』と言って、執拗にクロザリルを勧めてきます。でも、これまでの処方があまりにも雑で、そのために息子は症状が悪化したと思えてなりません。薬をきちんと整理するとか、優先すべきことは他にあるはずです。どうしたらよいでしょうか」
Оさんは20代で統合失調症と診断されました。症状は近年安定していましたが、2020年、身内の不幸やコロナ渦の影響で不安定になり、入院。すると、病院の若い医師が薬の変更を短期間で繰り返し、病状がますます悪化しました。その挙句、医師はこう言ったのです。
「もうクロザリルしかありません。嫌なら他に行ってください」
KPでは、他の医療機関への相談を勧め、Оさんは転院しました。すると、クロザリルを使うまでもなく症状が落ち着いたのです。
クロザリルへの安易な誘導を嘆く声は、ベテラン精神科医からも上がっています。東京都立松沢病院名誉院長の齋藤正彦さんは、2021年10月の講演会(みんなネット東京大会)で、怒りをにじませながらこう語りました。
「難治だからクロザリルを使いましょうと、安易に言う医師がいる。『バカ言ってんじゃない』という話ですよ。クロザリルを使ったら、2週間に一遍、血液検査で病院に来なければならない。それは患者さんに一生、大きな社会的制約を加えるということ。そういうことに(若い医師たちが)憚りがないのは大変困った事態だ」
経験不足のヤブ医者たちが、ヘタクソな処方で「治療抵抗性」を作り出し、クロザリルに安易に誘導しているのです。こんなことでは、精神医療に対する患者や家族の不信感は強まるばかりです。
