番外編 大阪ビル火災でまたも精神疾患バッシング/生贄的決めつけを「恥ずかしい」と思う社会に
新型コロナにかき回された2021年。多くの人が過去にないほどのストレスを抱え、メンタル不調者が急増する中で、師走の大惨事が起きてしまいました。大阪市の心療内科クリニックで、患者やスタッフら25人が犠牲となったビル火災。放火したとみられる谷本盛雄容疑者(61)も、このクリニックに通院していたことから、精神疾患のある人へのバッシングが起こっています。この件について、全国紙や地方紙など複数の新聞社からコメントを求められました。私は次のように考えています。
この手のバッシングは、こうした大事件が起こる度に発生します。それがいかに的外れで下劣なのか、本当は子どもでも分かるはずです。大阪府は、もともと刑法犯認知率が非常に高い自治体ですが、だからと言って、「大阪人はみな犯罪者だ」と決めつける人はいないでしょう。そんなことを言ったら、それこそ脳機能を疑われます。大阪人にもいろいろいて、犯罪に走る人は一部だというのは常識だからです。
精神疾患のある人も千差万別で、犯罪に走る人は一部です。精神科では、患者の脳内をくまなく調べて診断するわけではなく、患者の話を元に、典型的な精神症状があるかどうかで診断するので、同じ病名でも脳や体で起きていることは様々です。犯罪につながるような異様な妄想を抱く患者はいない、とは言いませんが、精神疾患と診断されていなくても、異様な考えに固執して社会に大迷惑をかける人はいます。統計的に見ても、精神疾患の患者のほとんどは犯罪者ではなく、結局のところ、犯行には個人の問題が強く関与します。それは「健常者」と同じです。
今回のビル火災のような凄惨な事件が発生すると、社会は原因究明と再発防止に躍起になります。しかし多くの場合、重大な犯罪の予兆を捉えるのは困難です。「そういえば、あいつはちょっとおかしかった」という後付けは役に立ちません。「ちょっとおかしい」人は「健常者」の中にもごまんといるので、その中の誰が他人に牙をむくのかなど、わからないからです。
それでも、この社会は原因を探さずにはいられません。安心できないからです。そして、「精神疾患」という安易な指標が生贄的にターゲットになります。重大事件の犯人は、人生のどこかでメンタル不調を抱えた経験があることが多いので、「精神疾患」という指標を持つ人を片っ端から排除すれば、治安を維持できると信じようとするのです。私はこの社会のそうした考えこそが、ヒステリックで危険な病的妄想だと感じます。
20世紀半ば、国が旗を振った隔離収容政策によって、極めて多くの人が危険人物扱いされて、何十年も精神科病院に閉じ込められました。無理に抑え込む必要のないレベルの精神症状までも、多量の薬で消すことを強要されました。そして「精神疾患のある人」⇒「閉じ込めないといけない連中」⇒「やばいヤツ」という乱暴極まりない考えが社会に浸透していったのです。
しかし、近年は有名人がメンタル不調を次々とカミングアウトするなど、変化の兆しもあります。精神疾患のある人たちが本来の力や魅力を十分に発揮し、社会の中で堂々と生きていけば、「精神疾患」=「犯罪者予備軍」という幼稚な決めつけは、恥ずかしくて誰も口にできなくなるはずです。KPとOUTBACKアクターズスクールも、そうした社会の実現を目指して活動の幅を更に広げていきます。
