反響編2/文化庁が「夜明け前のうた」を上映中止に/映画賞授与作をなぜ?/12月19日、東京で抗議の無料上映会

映画「夜明け前のうた~消された沖縄の障害者」の監督・原義和さんのインタビューを、このコーナーに掲載したのは今年5月末のことです。この映画は、沖縄で1972年の本土復帰まで残っていた私宅監置制度(精神疾患の人などを座敷牢に閉じ込める制度)の残酷さを克明に描き、国の責任を問うた必見の力作です。11月2日には、文化庁の文化記録映画優秀賞を受賞し、年末も各地で上映会が予定されていました。ところが、文化庁は11月6日に予定していた記念上映会を突然取りやめ、自治体主催の上映会も、文化庁の方針に従う形で次々と中止される事態に直面しています。どういうことなのでしょうか。

原さんによると、文化庁が上映中止を決めたきっかけは、映画に登場する私宅監置の犠牲者の遺族から「事実と異なる」との苦情が届いたためのようです。原さんは、12月1日作成の「上映中止を問う声明」で、こう記しています。

「文化庁は、私とご遺族の『当事者間の問題』と説明しながら、実際にはご遺族側の意向に従って上映会を全面的に取りやめています。上映の取りやめは、表現の全面的遮断になるため、表現の自由に対する最も厳しい制限です。文化庁は、一方では解決は当事者間の問題とし、他方では解決までは上映を認めないとすることで、結果的には映画表現を封殺する姿勢をとっています。私はこうした国の姿勢を認めることができません」

映画の中のどの部分に、遺族は違和感を抱いたのでしょうか。原さんは声明の中で、「私はこのご遺族と対立するつもりはありません。対立すべき真の相手は、私宅監置制度を敷いた日本国家だからです」とした上で、こう書いています。

「苦情を申し立てているご遺族は、ある離島で私宅監置されていた犠牲者の子どもさんです。苦情の焦点は、そのご遺族のご長男(苦情を申し立てをしている方の兄)が島を出られた後、どのような気持ちだったかを慮って、『心の拠り所が奪われ、戻りたくても戻れない。つらいと思う』と語られた島の女性のインタビューです。ご遺族は『戻りたくても戻れないというのは事実ではない』と訴え、削除を求めておられます」

長男は既に亡くなっていますが、島を出た後も何回か島に行っていたようです。だから「事実と異なる」というわけですが、映画で言っている「戻れない」という言葉には、もっと深い意味が含まれているように、私は鑑賞時に感じました。原さんはこう書いています。

「そこで語られている『戻る』という言葉は、お盆や正月などに帰省するという意味にとどまらず、島に帰って再びそのコミュニティーの中で暮らしていくことを含んだ言葉です」

「当該インタビューの文脈が伝えているのは、島と一定の距離ができてしまったご長男が心に宿していたであろう『悲しみ』なのです」

そして原さんは、遺族に対して次のような提案をしています。「意味の受け取り方に食い違いがあると思われますので、ご遺族とはこの点の齟齬を解消する機会を作っていきたい」「できれば(ご遺族の)その見解を、短い『続編』映画を新たにつくって世に示し、ご遺族の思いも含めて複合的な角度から私宅監置という歴史をどう見るべきか、視聴者にご判断いただく機会をつくりたい」。

一番の問題は、この映画でも遺族の認識でもないと、私も思います。「上映中止」という表現の自由の破壊を、あまりにも安易に実行する文化庁の姿勢です。このような甲斐性なき事なかれ体質の行政組織に、日本の文化は守れません。民間主催の上映会が全国各地で広がり、この映画の評価がますます高まることを願っています。

原さんの「上映中止を問う声明」はこちら

今月10日、原さんは上映中止に抗議する緊急記者会見を東京都内で開き、19日には新橋で無料上映会を開催します。

映画「夜明け前のうた」無料上映会

12月19日(日)午後1時開場 入場無料

場所:スペース FS 汐留(東京都港区東新橋 1-1-16 汐留 FS ビル3F)

メールにて予約申し込み受付。予約をしていない方は先着順で会場受付

会場定員150名。定員を超えた場合は入場制限

主催 監督 原 義和/新日本映画社

連絡先:新日本映画社(担当:甲斐) TEL:03(3496)4871 メール:kai@espace-sarou.co.jp

5月末に「精神医療ルネッサンス」に掲載した「夜明け前のうた」に関する記事