反響編/注目集めた日精協会長インタビュー/白黒思考から「灰色上等」思考へ
日本精神科病院協会会長・山崎學さんの3時間インタビューを元に作成した「精神医療ルネッサンス」は、非常に大きな反響を集めました。一部自治体がなぜか公開を阻む630調査の情報公開を巡り、市民グループが作成した審査請求書でインタビューの一部が引用されたり、家族会の会報で一部が紹介されたりもしました。
長野県精神保健福祉会連合会が発行する会報「ニュース ながのかれん」の2021年11月号(第547号)では、一面と二面でこのインタビューが紹介されました。「精神科病院が置かれている立場について」「国の姿勢について」「会長が精神疾患の患者をどのように見ているか」「拘束について」「地域移行に伴う就労について」など7つの見出しに合わせて、関連する発言が引用されました。そしてこの記事は、「精神疾患に関する国のスタンス」として、次のように結んでいます。
「我が国の精神疾患への取り組みは、治療・予防に向けた取り組み意欲が乏しく、医療と家族に全て依存してきました。今叫ばれている『地域移行』は、『受け皿もなく』地域に投げ出そうとしています。帰る所もなく、グループホームは福祉団体に安価で委託され、十分な体制が確保できず、赤字を出さないようにすることが課題となっています。医療は精神科特例で医師・看護師の数が一般病院より少なく設定されています。精神科の先端医療も医療点数がつかず、やっている医療機関は持ち出し状態です。私達家族、当事者のニーズが届かない原因はこの辺にありそうです」
話は一旦ずれますが、精神疾患にかかりやすい人は、白黒思考の傾向があるとよく言われます。確かに、精神疾患になる人は「適度に手を抜く」「見方を少し変えてみる」ということが総じて苦手なようです。だからこそ、様々な情報を集めて視野を広げる認知行動療法が有効なのでしょう。
精神医療や精神科病院を巡る議論でも、白黒思考が横行しているように思えます。精神科病院の中には、患者をミスで死なせる等のとんでもないことを仕出かしたのに、隠蔽している施設もあります。「家族の協力が得られない」など諸々の事情で今は書けないのですが、いずれは報道したい悲劇的な事例を私も複数抱えています。精神医療ダークサイドの闇は深く、問題を徹底的に追及する姿勢は大事です。
しかし、だからといって民間精神科病院すべてを絶対悪として、潰すことだけを考える運動には賛成できません。そんなことを続けたら対立が平行線をたどるばかりで、患者はずっと蚊帳の外に置かれてしまいます。
民間精神科病院側の主張もきちんと聞いてみる。そうすれば、立場の違いを超えて協調できる部分も見えてくるはずだ。山崎さんのロングインタビューは、そのような思いで掲載しました。
山崎さんの主張を端的にまとめると、次のようになると思います。
「国(公)が本来やるべきことをやらないから、民間の我々がやっている。それなのに、この安い診療報酬は何だ。もっと金を付けろ。そうすればもっと良い医療を提供できる」
国が十分な診療報酬を付けないことを理由に、雑な医療に甘んじて来た精神科病院にも問題はありますが、一番の問題は、面倒なことを民間に押し付けて、責任逃ればかりする国の姿勢です。そして、このいい加減な国にエネルギーを供給している国民の総体こそが、ラスボスなのだと思います。このラスボスと闘い、状況を変えるには、患者自身がもっと声を上げて本当の姿を見せていく必要がある。そのために、KP神奈川精神医療人権センターやOUTBACKアクターズスクールは生まれました。
「せっかく世界一豊富な精神病床があるのだから、もっと活用を考えたらどうか」。こんな意見を口にしたら、精神科病院大嫌い派から裏切り者扱いされて攻撃される。そのような運動は著しく不健康であり、何も生み出しません。白黒思考に凝り固まらない柔軟な発想と、タブーなき議論が求められています。
