精神科ユーザーと演劇のコラボで閉塞打破/くるみざわさんがアーツカウンシル新潟のイベントで語る

編集長の佐藤光展です。9月4日、アーツカウンシル新潟主催のオンライン講演会「語りの場vol.25二つの世界─精神医療と演劇の現場から─」が開催されました。私もOUTBACKアクターズスクール副校長として参加したので、報告します。

この講演会では、精神科医で劇作家でもある、くるみざわしんさんが、精神科ユーザーと演劇が交わることで生まれる新たな価値や魅力について語りました。それは、OUTBACKアクターズスクールが目指す方向そのものであり、とても励まされました。

くるみざわさんは、現在の精神医療について「かなり行き詰っている」と指摘。「精神科の患者さんたちは、もう医者に期待できない状態になっています。そして、自分たちでなんとかしようという動きが全国で生まれている。その中から、自分たちの声を届けるために表現活動をしたいと考え、演劇に目を向ける人たちが出てきました。精神科は、医者の方はダメダメですが、厳しい体験を経てきた患者さんたちの中には、対話力や聴く力がとても磨かれている人が多いのです。その力は、演劇でも凄く生かすことができます」と語りました。

更に、演劇界の行き詰まりにも言及しました。「近年はコロナ禍などいろいろあって、社会の分断が進み、人々の考えが行き交わない状況にあります。そうした時代を生きる人々のためにも、訴求力のある作品が必要なのに、出ていない」とし、「行き詰まった精神科と演劇の世界が、行き詰まりを破るために互いに近づこうとしている。この動きは、とても注目されるようになると思う」と話しました。

続いてくるみざわさんは、各地のグループの取り組みを紹介。そのトップバッターとして、OUTBACKアクターズスクールが8月のKPイベントで披露した寸劇について、写真を交えて解説してくれました。

くるみざわさんが、特に印象深かったと語ったのは、身体拘束される患者役のトモキチが、心の叫びを表現するため、ガムテープを開口部に張ったバケツをバチでたたき続けたパフォーマンスでした。これは、強制入院や身体拘束の経験があるトモキチが自ら考えたもので、受講生たちの豊かな感性を象徴する場面となりました。

また、私のその場の思い付きで白衣を着て飛び入り参加し、中村マミコ校長の即席指導で迷惑精神科医・ドクター時男を見事に演じた精神医療国賠訴訟原告・伊藤時男さんについても、「大爆笑でした」とくるみざわさんは振り返り、コミカルなパフォーマンスを楽しんでくれたようでした。

くるみざわさんは、鹿児島のラグーナ出版、きょうとWAKUWAKU座、愛媛の世界劇団などの取り組みにも触れ、「患者さんだけでなく、医者などの医療者も一緒にレッスンを受けるような取り組みが広がって欲しい。患者さんたちが持つ力の大きさがわかり、従来の関係が激変するはず。これは学校の先生も同じで、指導する側にずっといるのは不健康です」と語りました。

OUTBACKアクターズスクールでは、11月7日の初の主催公演に向けて、受講生たちが練習を重ねています。どんなパフォーマンスが飛び出すのか。ご期待ください。

KP設立1周年記念イベントに参加したくるみざわしんさん(右から、俳優の土屋良太さん、くるみざわしんさん、中村マミコ、佐藤光展 写真撮影・藤井哲也)