まさかの大どんでん返しに賞賛続々/KP設立1周年記念イベント大成功/「発信力向上プロジェクト」が真価を発揮
コロナ禍の逆風の中、感染防止対策を徹底して8月7日に開催したKP設立1周年記念イベント「TALK BACK 私たちはもう黙っていない」は、横浜市健康福祉総合センターホールにほぼ満員(コロナ対策で使用座席は半分)の観客を集め、大成功となりました。
精神医療国家賠償請求訴訟の関係者たちを招いた第1部は、KPイベント統括を務める佐藤編集長と、原告の伊藤時男さん(70)との対談で幕を開けました。16歳の時、なぜか「アルコール依存症」と診断されて精神科病院に初入院させられたことや、夜中に脚がつってうめき声を上げたら親戚に「再発」と勘違いされ、再入院させられたことなど、不条理な体験の数々が語られました。
伊藤さんの入院歴は、計40年以上に及びます。連続38年も閉じ込められた福島県大熊町の双葉病院に送られる前は、東京の病院にいて退院したこともありました。しかし、双葉病院では「養鶏場や病院の厨房で作業を頑張って、退院できそうな感じになる度に、急な薬の変更や減薬が行われて体調が悪化し、出られなくなりました。意図的ではないかと疑っています」と、伊藤さんは振り返ります。
会場のスクリーンには、入院中に新聞投稿して何度も入選し、心の支えになった川柳の自信作や、父親と自分の人生を重ね合わせた詩「蟻の一生」などを投影し、当時の思いを振り返ってもらいました。精神医療国賠訴訟の原告になると決意した理由については「入院生活では自由がありませんでした。今度こそ、自分の意志でやるべきことをやろうと思ったのです」と語りました。
続いて、精神医療国家賠償請求訴訟研究会事務局長で精神保健福祉士(PSW)の古屋龍太さんが「精神国賠と精神保健福祉士─PSWの私たちも、もう黙っていない」と題して講演しました。
古屋さんは「諸外国に類をみない日本の精神病床の多さは、今も変わりません。この状況を招いた原因は、国策として行われた長期隔離入院収容政策と、精神保健医療福祉に関わる法制度にあります」と指摘。今回の訴訟を「精神保健福祉士としての存在価値を賭した、大切なソーシャルアクション」とし、理解と協力を求めました。また、ともすれば人権侵害の手先となりかねない精神保健福祉士に対して、「『仕方ない』で済ませる専門職であって欲しくない。ましてや、現状を『当たり前』と受け止めて欲しくはない」と訴えました。
次に登壇した同研究会代表の東谷幸政さんは、2012年暮れに佐藤編集長(当時は読売新聞記者)から精神医療国賠訴訟を勧められて「意を強く」したものの、原告募集の段階で誹謗中傷を浴びた経験や、毎日新聞の記者から「あなたが目立ちたいためにやっているパフォーマンスに過ぎない。すぐに止めろ」と、たしなめられた経験があると明かしました。それでも「見て見ぬふりはできない」と、粘り強く活動を続け、作家の織田淳太郎さんの紹介で伊藤時男さんと出会ったことをきっかけに、2020年9月、提訴に至りました。
最後に、1部の参加メンバーで総合討論を行いました。他国にはない強制入院制度(家族の同意で精神科病院に閉じ込める医療保護入院制度)の問題や、治安維持的な目的で現在も精神科病院が使用され続けている問題などが指摘されました。
佐藤編集長の突然の指名で、討論に飛び入り参加した週刊東洋経済編集部・調査報道部長の風間直樹さんは、東洋経済オンラインでの連載「精神医療を問う」の取材で実感した精神医療の闇の深さに言及。かつて、おぞましい患者暴行死事件を引き起こした報徳会宇都宮病院では、当時実権を握っていた精神科医が、今も95歳の社主として君臨している事実や、行政機関が精神科病院の不正行為の情報を得ても、全く動かない実態などを報告しました。
行政や警察の腰の重さは、栃木県だけではありません。「ちょっと変わった人たち」の隔離収容場所として精神科病院が機能し、行政や警察が便利使いしている限り、精神科病院で深刻な問題が起こっても、よほどのことがない限り厳しい調査は行われないのです。こうした現状を次々と告発し、早急に変えていく必要があります。

第2部では、精神科医のくるみざわしんさんが脚本を書いた演劇「精神病院つばき荘」が、1年10か月ぶりに再演されました。双葉病院や福島第一原発事故などがモチーフの2時間に及ぶこの劇は、3人の俳優たちの熱演もあって、圧巻の一言。職員の人間性までも破壊する精神科病院の不条理が、時にコミカルな描写も交えて克明に描かれていきます。原発事故の「おかげ」で双葉病院から脱出できた伊藤さんも観劇し、「おかしなことを押し付けてきた双葉病院の院長との会話を思い出しました」などと感想を述べました。
劇中では、「精神病院つばき荘」で自分を見失いそうになった院長が、自分の「名前」を取り戻していく過程が描かれます。上演後の討論で、くるみざわさんは「精神科医になって業務に追われ、一人前になるまでそれをやり続けていると、自分の名前を見失っていきます。僕も大きな精神科病院に勤めたことがありますが、しんどくて、やっていけなくなって、辞めた経験があります。『名前を取り戻すことが大事だ』『正しい名前を取り戻しなさい』という言葉は、その頃に友人に教えてもらいました。中国の言葉だそうです。その言葉を知ったことが、この時の苦しさを乗り越える力になり、この作品にもつながりました」と明かしました。
また、院長を演じた土屋良太さんは「役者には役柄の内面を探る作業があり、精神科医は役者の作業と似たところがあります。私自身、強迫神経症で大変苦しんできました。それなのに、この院長が抱いたような差別心もどこかにあります。この作品を演じることで、僕自身が変わっていけるのではないかと思っています。ただ、この作品はセリフが膨大で、役者にとっては地獄ですね。でも、この作品の持つ力に感動して、ぜひ演じたいと思ったんです」と語りました。
作者も役者も魂を込めた素晴らしい劇です。今後も各地で再演が続くことを願っています。


第3部では、OUTBACKアクターズスクールの受講生たちが、身体拘束や服薬強制などの実体験をもとに、中村マミコ校長らと作り上げた寸劇を披露しました。深刻な人権問題を含む内容でありながら、「人類皆兄弟」を唱える謎のサムライが出現するなど、2部までの重い空気を一変させるコミカル劇に会場は大爆笑。白衣姿で舞台に突然上がることになった伊藤時男さんも、迷惑な精神科医「ドクター時男」をアドリブで演じ、笑いと万雷の拍手を浴びて満足そうでした。
来場者からは「2部までの深い内容もよかったが、3部の大どんでん返しに衝撃を受けた。何かを変えるかもしれない凄い力を感じた」「深刻な人権問題をコミカルに演じることを許されるのは、実際に被害を受けた人だけ。患者が演じることの意味は大きいと思った」などの感想が寄せられました。
OUTBACKアクターズスクールは、11月7日(日)、横浜・山下公園に隣接する、あかいくつ劇場で初の自主公演を開催します。詳細は後日お知らせします。 KPの活動は、従来の精神医療人権センターの枠にとどまりません。不適切な医療・福祉から患者を守り、地域生活をサポートする活動に加え、そこから先の「発信力向上」プロジェクトを重視しています。OUTBACKアクターズスクールのような個々の魅力を伸ばす支援があるからこそ、思いもよらない人たちとのつながりが生まれ、人生が大きく開けていきます。今回のイベントは、そんなKPを体現する催しとして企画し、大成功を収めることができました。ありがとうございました。



写真撮影 佐藤光展・中村マミコ