長期入院を放置した国の責任を問う精神科国賠訴訟始まる

福島県内の精神科病院に39年も長期入院させられた伊藤時男さん(69)が、憲法が定める幸福追求権と職業選択、居住の自由を侵害されたとして、9月30日、国に3300万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。理不尽な入院の経験者が多く所属するKPは、伊藤さんを応援します。

伊藤さんは16歳の時に統合失調症を発症しました。1968年に最初の入院を経験した後、1973年9月から2011年3月までの39年間、福島県大熊町にあった精神科病院での入院生活を余儀なくされました。

入院以来ずっと「早く退院したい」という思いを抱き、病院近くの養鶏場での作業などに積極的に参加したそうです。しかし、医師に退院の希望を伝えても取り合ってもらえず、家族との死別も重なって孤独感を深めていったそうです。

長い入院生活が終わるきっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災でした。病院が閉鎖され、避難先の茨城県内の病院に転院したことで、ようやく退院につながったのです。既に61歳になっていました。地域での穏やかな暮らしをようやく手に入れられたものの、結婚して子どものいる家庭を築く機会など、多くのものを失ったことに気付きました。

病状が安定して退院できる状態なのに、地域に受け皿がなく精神科病院から出られない「社会的入院」の患者は、現在も数万人に上るとみられています。患者1人あたり「年間500万円」の収入のために、なかなか退院させない病院も問題ですが、精神疾患患者を不当に危険視して、排除しようとする地域社会にも問題があるのです。KPには、不当な入院に関する相談が多く寄せられています。病状は極めて安定しているのに、世間の目を恐れる家族の受け入れ拒否により、強制入院が続いているケースなどが目立ちます。

日本という国は、精神科病院に長く閉じ込めた患者たちの夢や希望を、ずっと無きものとして扱ってきました。伊藤さんたちが声を上げなければ、これからも無視し続けたことでしょう。さらに恐ろしいことに、この国に暮らす人々は、やっと声を上げた伊藤さんたちに対して、インターネットの匿名投稿などで「狂気」とも言える誹謗中傷を浴びせかけています。心が著しく病んでいるのは、こうした人たちではないでしょうか。

私たちKPは、この閉鎖社会にはびこる「狂気」に屈することなく、地域でふつうに暮らす患者の権利を守るために、声を上げ続けます。

東京地裁への提訴後、厚生労働省で記者会見した伊藤時男さん

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