横浜市都筑区のヘイト幟旗に対するKPメンバーそれぞれの思い
KPでは今春から、横浜市都筑区の住宅街に立ち並ぶヘイト幟旗の撤去を求めてチラシを毎週作成し、この住宅街で配布活動を続けてきました。「KP便り」と題したこのチラシには毎回、KPメンバーが思いを綴っています。一部をご紹介します。
就労移行支援事業所森の庭わーく利用者 寺田 幸太(27)
私は小学校から高校卒業まで、ずっといじめられていました。
中学2年の夏には廊下で複数の生徒に羽交い絞めにされ、逃げるために階段を降りようとすると、背中を後ろから蹴られて突き落とされました。このいじめで足の骨を粉砕する骨折を負いました。
当時は喘息を患っていたので、手術では全身麻酔を十分にかけられず、痛くて苦しくて本当に嫌になりました。ほかにもリンチやカバン持ち、「死ね」「うざい」「自殺しろ」といった暴言など、様々ないじめを毎日のように受け続けてきました。
その結果、感情の起伏がなくなり、ぼーっとしてしまうことが増えました。やがて、誰かに追われているような恐怖を常に感じるようになりました。このような状態で精神科を受診すると、「統合失調症」と診断されました。
私の精神疾患は、いじめによって引き起こされたのです。私のような苦しい経験をしている元いじめられっ子の患者はとても多いと思います。
だからこそ、都筑区の住宅街に立つヘイト幟旗を見て本当に驚きました。なぜ被害者である私たちを狂暴な加害者のように扱うのか、住民の方々の気持ちを理解できなかったからです。
私たちは暴力の加害者ではなく、被害者です。それなのになぜ、私たちを危険視するのですか。健常者としてふつうに暮らし、ふつうに働いている元いじめっ子たちの方が、私は危険だと思えてなりません。
私たちを危険視する発想は、いじめっ子たちがやってきた卑劣な弱い者いじめに等しいと思います。私たちをこれ以上いじめないでください。
横浜ピアスタッフ協会(YPS)ピアサポーター 田村 千秋(49)
私は精神疾患を患った経験を生かし、横浜でピアサポーターとして活動しています。7月3日、私は「子どもたちの安全を守れ」「地域住民の安全を守れ」等の黄色いヘイト幟旗を現地で初めて見て、とても驚きました。
私達は誰でも、知識が不足するとそのために目が塞がれて、自分とは異なる人達(障害のある人達、経済的に困っている人達、人種の異なる人達など)を心に受け入れることができず、拒絶し、平気で偏見や差別の眼を向けてしまいがちです。
けれど、閑静な荏田南地区にお住まいの皆様は、大学や大学院等で学ばれ、学を沢山積み、実社会で成功し、エリートと呼ばれている方達なのだと思います。そのような教養豊かで、自分とは異なる人達に対しても寛容ではないかと思える方々が、黄色いヘイト旗を庭にはためかせているとは、信じられないことでした。
学問を積む機会に恵まれた人達の社会での責任は、社会的弱者の気持ち、境遇、困難などを理解して、時には救いの手を差し伸べて、自分達との違いを認めながら、同じ地域で共生していくことではないかと思います。
私は米国で長く暮らしていました。世界のメンタルヘルスの領域では、障害のある人も、ない人も、同じ地域で共生していくことこそノーマルなことだとする「ノーマライゼーション」の概念が1980年代に広まりました。社会的弱者を地域社会から追い出すのではなく、社会の一員として受け入れて共生しようとする「ソーシャルインクルージョン」という概念も一般化しています。
ヘイト幟旗を庭にはためかせることは、これらの世界の流れに逆らうことだと思いました。教養が豊かであると思われるこの住宅街の皆様ならば、国際的な流れに従っていく柔軟さを持ち合わせているのではないかと思います。黄色いヘイト幟旗をおろしていただきたいと思っています。
就労継続支援B型事業所シャロームの家利用者 五十嵐 謙(27)
私たちKPは独立した第三者機関として、神奈川県の精神科医療を受診している方々の人権擁護活動をしております。私は脳性まひという障がいを抱えていますが、就労に向けて頑張っております。
モアナケアが運営するグループホーム「YACHT」への「運営反対」や「子どもたちの安全を守れ」という黄色い幟旗をみたとき「こんな運動が未だにあるのか」と思い、憤りを感じました。その時にふと、昔のことを思い出しました。
私は、学生時代に障がいゆえにいじめを受けていました。障がい者を差別する言葉を多く浴びせられ、精神的にダメージを受けました。とくに高校時代に受けたいじめは壮絶で、同じ相手から3年間いじめられていました。しかし、成績はクラスでもいいほうで、友人も多くいました。
その後、「自分も誰かの役に立ちたい」と思うようになり、大学で社会福祉を勉強しました。障がい者福祉の授業で、「障がい者の人権侵害はいけない」ということを学び、「いじめも人権侵害である」と思うようになりました。障がい者であることを理由に差別を受けることなく、健常者と同じように地域社会の中で生き生きと社会参加するべきであると考えるようになりました。
精神障がい者は決して、住民の皆様にとって有害な存在ではありません。私も、通所している事業所で精神障がい者と交流することがありますが、有害な存在だと思ったことは一度たりともありません。それにもかかわらず、住民の皆様が精神障がいへの理解がなく反対運動を続けるのは、れっきとした精神障がい者への人権侵害であると言えます。
住民の皆様には、どうかあの黄色い幟旗を一日でも早く全て撤去していただき、YACHTの利用者さんを温かく見守ってほしいと思います。
子育てピアサポートグループ「ゆらいく」メンバー 女性
私と夫は共に精神障害者です。高校生になる息子がいます。「子どもたちの安全を守れ」などの幟旗を見て驚き、怖くなりました。
精神障害者から子どもを守れというのは、私たち夫婦から息子を奪えということでしょうか。
息子は障害者と同じクラスで学ぶ機会を通して、障害者への理解を深めてきました。幟旗を立てている皆様は、障害者と共に学ぶ子どもたちが危険にさらされているとお考えなのですか?
就労継続支援B型事業所シャロームの家利用者 女性(27)
地域住民の安全を守れ、子どもたちの安全を守れ。そう書かれた黄色い旗が立つ住宅地にぽつんとあるグループホームをはじめてみて、驚き、悲しい気持ちになりました。
私は磯子にあるシャロームの家というB型事業所で働いています。シャロームの家では、精神障害者たちが元気で明るく仕事をして日々を過ごしています。
どうして精神障害者が地域住民の安全を脅かすと思うのですか?どうして精神障害者が子どもたちに危害を加えると思うのですか?
私は、今は障害者手帳を持ち暮らしていますが、以前は障害者ではありませんでした。誰もが障害者となりうるのです。障害者にも心があり、大切なひとりであり、皆さんと同じく尊い存在です。
ニュースで犯人として取り上げられる障害者に恐怖を感じますか?ニュースではなく、あなたの眼できちんと、障害者ひとりひとりをみてください。住み始めた地域に受け入れられず、居場所がないと感じることの悲しみを、理解して欲しいです。どうか、よろしくお願いします。
就労移行支援事業所森の庭わーく利用者 男性(26)
私たちは精神疾患を患った経験があるだけなのに、「怖い」「危ない」「危険」などのマイナスのラベルを貼られがちです。実は私も、健康な時はそういうイメージを持っていました。
ですが、複雑性PTSDという精神疾患を発症し、入院生活を続ける中で、私を救ってくれたのは患者仲間の温かさでした。そして退院して、様々な当事者活動に参加してわかったことは、精神疾患を持つ大多数の人が、苦しい体験を乗り越えてきた強さを持っているということです。病状が安定すれば、社会で十分に活動できる人たちなのです。 生活環境や病気の苦しさを乗り越えて、頑張って生きている人間の1人として、私たちを見ていただけるとうれしいです。