2023.4.11. 最終更新
本ページでは、2012年〜2022の11年間の630調査*のデータに基づき、日本の精神科医療の現状をまとめています。日本では、世界に比べて精神科患者の入院率が高く、その入院期間も長いといえます。中でも、医療保護入院と措置入院という強制入院の多さが問題視されています。
*精神保健医療福祉の実態を把握するために、厚生労働行政推進調査事業費補助金(障害者政策総合研究事業)研究班が毎年行っている調査。毎年6月30日時点の状況を報告するため、630調査と呼ばれている。
全国の精神科病院在院患者総数

全国の入院患者数

全国の精神科病院在院患者数は全体として減少していますが、入院形態別の患者数に注目すると、減少しているのは任意入院患者数がほとんどであり、医療保護入院患者数は緩やかに増加しています。
全国入院形態別

※以上の数に「その他の入院」と「不明」を足した数が合計の入院患者数となる
データを読み解くポイント①
なぜ任意入院のみが著しく減少しているのだろう?
医療保護入院とは、精神保健福祉法に基づき、
- 精神保健指定医1名の診察の結果、入院が必要と認められ、
- 家族等(配偶者/親権を行う者/扶養義務者/後見人/保佐人)の同意があり、
- 任意入院が行われる状態にないと判定された精神障害者
を入院させる入院形態で、患者本人の同意がない場合でも、家族等の同意によって当事者を入院させることができる、強制入院の一種です。
一方で、任意入院とは、患者本人の同意に基づいて行われる入院形態です。原則として、開放病棟処遇であり、本人の意思で退院することが可能です。
ここ10年のあいだに、任意入院患者数は著しく減少している一方で、医療保護入院患者数が横ばいであるのはなぜなのでしょうか?
急性期で混乱が著しく、患者本人による同意が困難なケースにおいても、本人の人権を最大限尊重し、納得と同意に基づいた入院が増えるよう、根本的な医療・福祉支援体制の改革が求められています。
全国の精神科病院在院期間
入院患者全体のうち、半数以上が1年以上の長期入院患者です。

在院期間が10年以上の入院患者の多くは高齢化しており、その退院理由のほとんどは「死亡」によるものです。10年以上の長期入院者が減少しているのは、病院内で死亡する患者が増えていることを表しています。一方で、10年未満の入院者の数は横ばいになっています。
入院期間の推移

データを読み解くポイント②
なぜ長期入院者の数は減らないのだろう?
長期入院者とは、1年以上入院している患者を指します。
また、症状が回復しており、入院治療の必要がないにも関わらず継続して行われる入院は社会的入院と呼ばれます。
2019年時点で、全国の精神科病院の入院患者の半分以上が長期入院者となっており、そのほとんどが65歳以上の高齢者となっています。
厚生労働省(2014)の報告によると、入院が長期化するにつれ、地域に退院するケースの割合は減少します。
- 入院期間が1年未満の患者の71.4%の退院理由が「家庭復帰」であるのに対して、
- 入院期間が1〜5年の長期入院者の退院理由は「転院・院内転科」(34.9%)と「死亡」(19.9%)が半分以上を占めています。
- さらに、5年以上の長期入院者の退院理由は、半数近い48.6%が「転院・院内転科」、27.6%が「死亡」となっています。
入院が長期化するにつれて、就労や一人暮らしなどの社会復帰は困難になるとされています。そのため、1年未満での退院を促進することが、スムーズな社会復帰において重要となります。
しかし、なぜ1年以上の長期入院者の数は減少していないのでしょうか?
入院の短期化のためには、退院しやすい地域社会が必要不可欠です。入院経験のある方の人権が尊重され、暮らしやすく、働きやすい社会が実現されるよう、取り組まなくてはなりません。
参考:厚生労働省. (2014). 第8回 精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会『長期入院精神障害者をめぐる現状』.
参考資料
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター (n.d.)『2012-2016 年度精神保健福祉資料』「精神保健福祉資料[630]」(https://www.ncnp.go.jp/nimh/seisaku/data/630/, 2020.7.5.参照).
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター (n.d.)『2017-2022 年度精神保健福祉資料』「630 集計:従来フォーマットでの集計」(https://www.ncnp.go.jp/nimh/seisaku/data/, 2023.4.11.参照).
データのダウンロード
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